英語の先生応援団 高校の英語の先生を応援します!    

2010年9月 5日(日) 05:43 JST

アルク高校教材編集部レポートVol.29
~第5回 英語の先生応援セミナー 受験にも日常のコミュニケーションにも役立つ英語指導~

このコーナーでは、アルク高校教材編集部が拝見したユニークな英語授業の取り組みや、参加したセミナー・学会の概要を紹介いたします。

去る11月1日、「第5回英語の先生応援セミナー」が開催されました。今回のテーマは「受験にも日常のコミュニケーションにも役立つ英語指導」。この、一見すると相反するように思える要素(受験/日常のコミュニケーション)をいかに融合させていくかをテーマに、4人の先生方のお話を伺いました。

4技能の力を高める必要性 ―― 第1部 吉田研作先生

第1部は吉田研作先生(上智大学外国語学部教授)による「受験を越えた英語指導の必要性」。

大学受験では英語の問題を解くことができても、大学を出てから英語をうまく運用できない。そんな人が多いのはなぜでしょうか。読む・書く・話す・聞く。この4技能を使いこなすコミュニケーション・レベルを高めるには、小学校から大学までの英語指導を根本から考える必要がありそうです。

2011年より、小学校での外国語(英語)活動が必修化されます。小学校の学習指導要領ではコミュニケーション能力の素地を養うことが第一に挙げられています。実際に、小学校での英語学習の影響を受け、「英語を話す人と友達になりたい」「世界をよりよく知りたい」といったモチベーションを持つようになった生徒が多く見られることが、データにより明らかにされています。

こういった現状を受けて、中学校に入ってからも小学校での活動を土台にした授業が行われる必要に迫られます。小学校で、英語を使ってコミュニケーションする楽しさを実感させる一方で、中学校で文法を中心に日本語で教えていたのでは、小学校から中学校への橋渡しがうまくできません。また、文法重視の指導で、逆に生徒のやる気を削いでしまうことのないよう、注意する必要が生じます。

吉田先生の提示されたデータによると、「英語の勉強に対して最もやる気が高かった時期」は中学1年生の始め頃。ところが、中学1年生の後半くらいから、「英語が苦手」と感じるようになるそうです。特に苦手なのは文法だとのこと。「英語で言いたいこと」があり、それに対して「英語で言えないこと」があると生徒自身に気づかせた上で、その知的ギャップを埋めるべく「文法」を教えれば、生徒の英語力はぐんと伸びるそうです。

高校になると、4技能の力を万遍なく伸ばすことはさらに大切になっていきます。ところが、この頃から、生徒は「受験に役立つ」授業を求め始めるそうです。しかし、SELHi で英語を学んだ生徒がセンター試験でも良い点を取るように、コミュニケーションを重視し、4技能の力を伸ばす授業は、決して受験に役立たないものではなく、むしろ大きな支えとなることがわかっています。それは、リスニングやスピーキングの活動においても、リーディングやライティングの能力が必要とされるからです。質の良いコミュニケーションをするためには、英語をたくさん読んだり書いたりすることが欠かせないため、近年増えている長文の文意をつかむ入試問題にも対応できるようになるのです。

吉田先生は今、TEAP(Test of English for Academic Purposes)の開発にかかわっていらっしゃいますが、これは「大学教育レベルにふさわしい英語運用能力」を主とするテストで、4技能が試されます。

コミュニケーション能力の育成を組み入れ、かつ小学校〜大学の一貫した英語教育を行うにはまだまだ課題が多そうです。が、吉田先生は小・中・高で見聞きされた事例を豊富に交えてお話しされました。これを受けて、今後ひとりひとりの先生方が情熱を持って課題に取り組んでいかれる姿を思い浮かべたのでした。


「言葉のリアリティ」を追究 ―― 第2部 和田玲先生

第2部は和田玲先生(順天中学・高等学校)による「“言葉”と出合う英語の授業」です。タイトルにもあるように、和田先生の授業の根底に流れているのは、「英語の指導が、単なるスキル指導にならず、『言葉との出合い』を生むにはどうしたら良いか」ということです。その工夫の一端を、リスニングと音読の指導を例にとって、見せていただきました。

まず、リスニングでは、TOEIC® テスト PART 1 のリスニング問題(写真に最も合う状況説明を、放送される4つの選択肢から選ぶ、というもの)を解きました。普通は答え合わせや解説をして終わりですが、和田先生の授業はそこから始まります。正解でない選択肢(例えば “The woman is carrying some bags.” )について、どのような状況を表しているか参加者に絵で表現させ、その絵を元に隣の参加者と、“What’s this?” “The woman is carrying some bags.” などと会話をします。しかし、その会話には不自然さが残るため、次に “The women is carrying some bags.” といった文が出てくるにはどういった質問を投げかけるべきか?と考えさせます。“What is the woman doing?” という質問が出てくれば正解。現実のコミュニケーションでもあり得る会話に発展したのです。無機質だったTOEICの選択肢が、「言葉のリアリティ」を持った瞬間でした。

その後、「心を吹き込む音読」について、ワークショップ形式で体験しました。教科書などのテキストを普通に音読しただけでは、いくら「感情を込めて読もう」と生徒に言っても、上滑りしてしまうことがあります。そこで、音読をする文章の内容や構造を理解した上で、生徒が日常で遭遇する別の状況に当てはめてその文章を読んだり、また、さらに気持ちを込めさせるために場面に合ったBGMを流したり、といった工夫が提案されました。こうしたプロセスを経て、教科書などの英文が、生徒自身の、リアルな「言葉」になっていきます。ここで用いられたテキストは、不出来な息子を叱る母のunhappyな感情が全面に押し出されたメッセージでしたが、こうしたプロセスを経ると、我々読者はその表層を突き破り、根底に潜む母の真意である「愛」(Love)を感じとることができました。つまり、真の意味でのリーディング(読解)を経験することが出来たわけです。また、この過程で、音読の楽しさを生徒が体験し、マンネリになりがちなスキル学習のやる気を高める効果もあります。私自身、この演出が本当に興味深く、音読って楽しいなあと感じました。同時に、和田先生がいかに生徒の気持ちの変化を読み取り、授業を工夫されているかを知ることもでき、改めてその情熱に感動したのでした。

和田先生のお話はリーディング指導全体に発展し、最後に、「最近の大学入試には、単なる『英文読解力』ではなく、生徒の世界への関心を試すようなテーマが出題されている。つまり、英語を通じて世界への関心を高めることは、受験にもつながるのだ。英語リーディングは、英文を通じて世界のさまざまな事象について知る『読書』であるべきではないか」と述べられ、講義を締めくくられました。


王道のディクテーションに挑戦 ―― 教材使用事例紹介 佐藤仁志先生

第3部へ進む前に、ここで教材使用事例紹介が行われました。佐藤仁志先生(駒場東邦中学・高等学校)による、「『センター試験英語リスニング合格の法則』を使用した授業事例のご紹介」です。

佐藤先生の学校では週6コマの英語授業を3人の教師で受け持っているため、教師1人につき持てる時間は2コマだけ。前任校ではリスニング指導に割くべき時間がとれなかったという佐藤先生ですが、ご自身でディクテーションをしてみて、いかにリスニング力が伸びるかを実感。その経験を生かし、現在の高校では、センター試験にリスニングが必要ということもあり、『センター試験英語リスニング合格の法則』(アルク刊/木村達哉先生著)を使ったディクテーション指導を始められたとのことです。

さて、ここで実際に先生方がディクテーションをしてみることになりました。『センター試験英語リスニング合格の法則』から、「レッツ・トライ」を一題選び、音声を流します。それを何度かリスニングしながら、書き取っていくのです。私も参加してみましたが、どうしても聞き取れないところがありました。解答を見て初めて、書き取れなかった個所は文法的に考えれば書けたはずだったことに気づきました。リスニング力だけでなく文法力も鍛えられることを実感した次第です。やはりディクテーションの効果は侮れません。

佐藤先生によると、普段、英語に身が入らない生徒でも、全文ディクテーションになるとやる気を見せるそうです。空欄記入式のディクテーションとは違って、全文ディクテーションでは少しでも必ず書き取れる個所があることが、生徒のやる気を刺激するようです。

「今、英語が苦手でも、大人になってリスニングに興味をもつ者が出てくるかもしれない」という言葉で、教材使用事例紹介は締めくくられました。


教員が自己研鑽を怠らない ―― 第3部 木村達哉先生

第3部は、木村達哉先生(灘中学・高等学校)による「生徒のモチベーションを保ち英語力に自信を持たせる英語指導」です。灘中学・高等学校では中学校入学から高校卒業までの6年間を持ち上がりで教えていく、というシステムになっていて、その中で木村先生がどのように生徒を指導しているかについて伺うことができました。

木村先生は、灘中学・高等学校へ赴任した際、以前の学校で教えていらした、構文を SVOC や SVOO などの構造分析の切り口で捉える指導をきっぱりおやめになったそうです。そして現在は、「読む楽しみ、聞く楽しみが出てきて、主体的に学習ができる」、この力をいかに育むかをテーマに、6年間のシラバスを考えていらっしゃいます。

達成感(「できた」という手ごたえ)を持たせること、そして自主的に学習させることが大事であって、「勉強させられている」感があってはいけない。そのため、一例としては、中学1年生の最初のテストでの出題はかなり易しくしているそうです。これは実績・自信をつけさせるためであって、こういった成功体験の積み重ねが、英語を楽しむために非常に大切になってくるのです。また、英語の学習を楽しめるようになるためには、まず単語・文法・読書力といった基礎を確立することが大事です。1週間に100単語を確実に覚えさせる単語学習法や、文法力を鍛える Read and Look Up をご紹介いただきました。

Read and Look Up は、1. ある構文を音読し(例えば If I had studied hard, I could have passed the test.)、2. 教科書を閉じて、覚えた文を暗唱するエクササイズです。これができるようになると、木村先生が生徒を当てて、同構文だが内容の異なる和文(例えば「もし○○君がもっと練習していたら、試合に勝てただろうに」)をおっしゃり、生徒がその和文に当てはまる英語を答えるプラクティスを行います。ここでは生徒の日常生活や学校生活に根ざした英文を考えさせるのがポイントです。このやり方で、1時間に10~15人に当てて答えさせるそうです。基本的な日本語を英語に直すことを通して、発信力を鍛える練習です。

こうした基礎力を鍛える訓練をベースとして、高2・高3になると、先生ご自身が入試問題を収集して作成された『The Ultra English』(この中から優れた文章を集めたものが、弊社の『国立大学英語リーディング』)をはじめとして、かなりの数(高2で300長文以上)の長文を読ませます。このように、生徒たちの実力を伸ばすための工夫がいたるところに見られます。

これらの、一見すると厳しそうな学習法は、「どうすれば生徒がわかる指導ができるのかを考える」という木村先生の試行錯誤から生まれたものであり、まず教員が自己研鑽を怠らないことが、ひいては生徒のモチベーションアップにもつながることが納得されました。



以上、4人の先生方のレクチャーをレポートしてまいりましたが、何よりも熱心に聴講する先生方のお姿に感動いたしました。皆さんとても勉強熱心でいらっしゃるな、と、こちらの気持ちまで引き締まる思いでした。

それぞれの先生方がそれぞれの問題点・課題点を抱えていらっしゃると思いますが、情熱を持って英語教育に取り組んでいかれることをお祈りし、応援させていただきたいと思います。


他のレポートを読む

最終更新日: 2010年3月 1日(月) 18:34 JST; 1,943 閲覧件数 印刷用画面